会社生活を駆け抜け(た)日々

55歳でひとまず会社生活に区切りを付けたその後の日々

デンドロカカリヤ

若い頃に読んで、もう一度読みたくなる本というのが幾つかあります。


水中都市・デンドロカカリヤ (新潮文庫)
水中都市・デンドロカカリヤ (新潮文庫)
新潮社

安倍公房の、デンドロカカリヤという短編が、いま読んでも面白く、中味も全然色褪せていないことに驚きます。


デンドロカカリヤの冒頭は、


コモン君がデンドロカカリヤになった話。


という一節で始まります。そしてその通り、主人公のコモン君が、デンドロカカリヤという植物になるまでを描いているのです。


最初は人間だったコモン君が、道を歩いていて不意に重力を感じ、植物に変身しそうになったのを、慌てて引き戻します。そしてその様子を見ていた植物園の園長につけ回され、うちの植物園に是非来て欲しいと説得されます。コモン君はその手に乗るものかとナイフを手に園長を襲おうとするのですが、簡単にナイフを奪われてしまいます。そして園長の言うままに、展示される場所に案内され、静かに両手を差し伸べて、菊のような葉を付けた植物に変わってしまいます。


話といえばこれだけなのですが、その不条理ともいえる出来事が、まるでお伽噺のように進んで行くので、読者は可哀そうだとか、なんでそんなことになるのか、などという疑問を抱くことなく物語を受け入れてしまいます。


そうして主人公が、デンドロカカリヤという植物に変わったときの滑稽さが不思議と心に残り、また手に取ってしまうという、独特な味わいのある作品になっています。


安倍公房の小説はカフカなどに近い、シュールレアリスムな作風です。ですのであまり一般には読まれ難い作家といえるかも知れません。ですが国際的には高く評価され、急逝していなければ、ノーベル文学賞は確実だったと選考委員の方が語っていたほどの存在です。


機会があれば読んでみてはいかがでしょう?

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