カチアートを追跡して
ティム・オブライエンといえば、村上春樹さんが翻訳しているということでも有名なアメリカの戦争作家です。
『ニュークリアエイジ』、『世界のすべての7月』、『本当の戦争の話をしよう』など、ベトナム戦争に従軍していた頃の経験を題材にした小説やエッセイで人気があります。
ですが本当の代表作といえる小説は、じつは廃版になっているのはご存知でしょうか?
ベトナム戦争に従軍した兵隊のなかから、突如パリに行くと言って一人抜け出した兵士カチアートと、彼を追って破天荒な追跡劇を繰り広げる兵団の、冒険活劇のような話しです。
カチアートと親しかった四級特技兵のポール・バーリンという若者が語り手で、その若者と幾人かの兵士たちがカチアートを追って実際にパリにまで到達する場面と、ベトナム戦争での数々の経験を回想する場面(哨戒地点と名が付く章)が交互に繰り返される構成となっています。
カチアートを追跡しながら兵団が奔走していくさまは、途中からなんとなくリアリティがなくなって行き、どうやらこれは主人公ポール・バーリンの頭のなかで繰り広げられている妄想のようだ、ということに気付かされます。
そしてそれは冒頭の、『兵士たちは夢見る者たちである』というエピグラフとも呼応し、苦しい状況から逃れるための逃避行動なのだとも受け取れます。
例えば現実世界でどうにもうまく行かない出来事に遭遇したとき、その苦痛から逃れるためにまったく違うことを想像するというのはよくあることで、いってみればそれこそが本書で語られているところの、想像力の戦いというものなのだということに気付かされます。
最後にカチアートが潜伏していると思われるパリの小部屋に到達したとき、主人公のポール・バーリンはどんな行動を取ったのか、もっともそれが現実からの逃避というものなら、主人公はその現実と向き合わなければならず、辛い瞬間を受け入れるということになるのですが・・・。
読み応えがあり、また再販してくれることを望みたくなるいい小説です。
